がん進展
【はじめに】
癌(がん,上皮性悪性腫瘍)の制御には,癌の発生と並んで,癌の発育進展の機序解明は極めて重要な事項である。これは,癌の発育進展機序が患者予後と密接に関連しているからである。癌と診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標である5年生存率(5年相対生存率,5生率)で比較すると,5年生存率90%以上を示す前立腺癌,甲状腺癌,皮膚癌,乳癌がある一方で,5年生存率が30%未満の膵癌,胆道癌(胆嚢癌,胆管癌)は,患者予後が不良といえる。胆道癌はなぜ予後不良なのかを,癌の発育進展の見地から説明する。
【癌の発生母地】
胆嚢微小癌の検討から、胆嚢癌は、(a) 胆嚢固有上皮より発生する場合と、(b) 化生上皮(胃型化生、腸型化生)の上方より発生する場合がある(図1)(文献1,2)。胆嚢固有上皮より発生した癌は、胆道型 biliary typeの形質を、化生上皮の上方より発生した癌は、化生型 metaplastic type (胃型 gastric type, 腸型 intestinal type) の形質を示すことが多いと示唆される(表1)。
図1.胆道癌の発生母地
表1.早期胆嚢癌および進行胆嚢癌の形質
症例数 |
胆道型 |
胃型 |
腸型 |
|
早期胆嚢癌 |
28 |
46.4% |
46.4% |
7.1% |
進行胆嚢癌 |
61 |
72.1% |
21.3% |
6.6% |
【進行癌の特徴】
消化管の癌(胃癌,大腸癌)では,分化型腺癌は膨張性発育を示し,相対的に予後良好であるが,進行すると静脈侵襲を介して肝転移を示す。一方,未分化型癌(低分化型腺癌,印環細胞癌)は浸潤性発育を示し,リンパ管侵襲や腹膜播種を呈して,相対的に予後不良である(図2)(文献3)。一方,胆嚢癌(=胆道癌全体でも同様)では,粘膜内進展により水平方向に拡大し,菲薄な胆道壁を浸潤性に発育しながら垂直方向に浸潤して,リンパ管侵襲・静脈侵襲・神経周囲浸潤を示す。これらが転移と関連し,患者予後不良につながる(図3)。
漿膜下層に浸潤した癌組織が発育進展して、胆嚢壁内の浸潤病巣を形成した場合には、すだれ型浸潤(筋層非破壊型浸潤)と筋層破壊型浸潤との2つの様式が存在する(文献4,5)。両様式の特徴は、主たる浸潤病巣で固有筋層の破壊があるか否かである。筋層破壊型浸潤を呈する胆嚢癌は、癌細胞の増殖能 (Ki-67 labeling index) が高く、より高頻度にリンパ管・静脈侵襲、神経浸潤をきたす傾向が示されている。進行胆嚢癌の組織学的形質は、胆道型 biliary typeが72%を占め、化生型 metaplastic type (胃型 gastric type, 腸型 intestinal type) に比べて優位であり、加えて有意に筋層破壊型浸潤様式が多いことが示されている(表2)。つまり、胆道型形質は、垂直方向への浸潤能が強く、高悪性度に関与していることが示唆される。
図2.消化管癌(胃癌,大腸癌)の発育進展の特徴
図3.胆道癌の発育進展の特徴
表2.進行胆嚢癌の形質と壁内浸潤様式
壁内浸潤様式 | |||
症例数 (n=61) |
すだれ型浸潤 (筋層非破壊型浸潤) |
筋層破壊型浸潤 | |
胆道型 Biliary type | 44 | 43.2% | 56.8% |
化生型 Metaplastic type |
17 | 76.5% | 23.5% |
【おわりに】
胆道癌では、胆道型 biliary type形質と化生型 metaplastic type (胃型 gastric type, 腸型 intestinal type) の両者が存在し、水平方向への進展を主体とする。胆道癌が進行すると、垂直方向への浸潤により高悪性度形質を呈し、浸潤性増殖の傾向が強い胆道型 biliary typeが相対的に優位となる。
【参考文献】
1.Kijima H, Watanabe H, Iwafuchi M, Ishihara N. Histogenesis of gallbladder carcinoma from investigation of early carcinoma and microcarcinoma. Acta Pathol Jpn. 1989; 39: 235-244.
2.鬼島 宏:胆嚢・胆管・十二指腸乳頭部.深山正久,森永正二郎編: 外科病理学,第5版,文光堂,東京,pp. 683-720, 2020.
3.Kijima H, Wu Y, Yoshizawa T, Suzuki T, Tsugeno Y, Haga T, Seino H, Morohashi S, Hakamada K. Pathological characteristics of early to advanced gallbladder carcinoma and extrahepatic cholangiocarcinoma. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2014; 21: 453-458.
4.Okada K, Kijima H, Imaizumi T, Hirabayashi K, Matsuyama M, Yazawa N, Oida Y, Dowaki S, Tobita K, Ohtani Y, Tanaka M, Inokuchi S and Makuuchi H: Wall-invasion pattern correlates with survival of patients with gallbladder adenocarcinoma. Anticancer Res. 29:685–691. 2009.
5.Okada K, Kijima H, Imaizumi T, Hirabayashi K, Matsuyama M, Yazawa N, Oida Y, Dowaki S, Tobita K, Ohtani Y, Tanaka M, Inokuchi S, Makuuchi H. Stromal laminin-5gamma2 chain expression is associated with the wall-invasion pattern of gallbladder adenocarcinoma. Biomed Res. 2009; 30: 53-62.